Looking for Football

フットボールと、旅。

「スペイン・バスクの育成を観て学んだこと、日本サッカーとの比較(前編)」Bilbao, Spain

f:id:prejump:20160419194214j:image

日、スペイン・バスク地方にあるビルバオという街を訪れ、育成年代の試合を多く観てきました。前回の記事で、バスク地方について少し書きましたが、この地域は非常に「育成」という分野で成功を収めています。

lookingforfootball.hatenablog.com

今回は、そのバスク地方で「育成」の現場を観て感じたこと、学んだこと、日本サッカーとの違いを、こちらで指導者をする岡崎篤さんから伺った話も含めて書いていきたいと思います。

 

|比較をするということ

まず前提として、全く同じ条件で、日本サッカーの育成とバスクの育成を比較することは不可能であるということは、理解しておかなければなりません。文化や人種、環境が全く異なるので、例えばスペインで良しとされている指導が、日本では悪い指導であるということも当然あると思います。

なので、どちらが良い悪いは置いておいて、とにかく僕がバスクの育成を観て学んだこと、そして僕の考えを書いていきますので、そういう前提のもと読んでいただけると幸いです。

 

|1.グラウンドへのアクセス

まず、ヨーロッパのスタジアムやグラウンドを幾つか見てきて感じることは、とにかく「アクセスが良い」ということです。ヨーロッパのスタジアムのすぐ近くには必ず駅があります。

f:id:prejump:20160419194256j:imagef:id:prejump:20160419194322j:image

今回育成の試合を見たビルバオのBilbao Kirolakは、駅のエスカレーターを出るとすぐ目の前にグランドがあり、誰でも気軽に試合観戦をすることが出来ます。これは日本にはなかなかない環境だと思います。日本のスタジアムや育成で使われるグランドは、駅からかなり遠かったりするので、日本のサッカーが普及しない一つの原因になっていると、僕は考えます。

こういう部分が、サッカーが文化であるヨーロッパの国々と、そうではない日本との違いの一つなのではないでしょうか。

 

|2.アプリ

f:id:prejump:20160419194407j:image

これは今すぐにでも日本で実行するべきだと思ったことですが、ビルバオには育成の試合の日程が一覧で見ることができる素晴らしいアプリがあります。いつ、どこで試合が行われているのか、一目で把握することが出来ます。自分が追いかけたい選手を登録することも出来るそうです。

このようなアプリがあるだけで、サッカーの日程を熱心に調べ上げているコアなファン以外も、週末の育成年代の試合を見ることができます。もちろん、試合を見る機会が増えるということは、指導者のためにも、選手のためにもなるわけですから、このアプリはとても大きな役割を果たしていると思います。

日本サッカー協会も、このようなアプリを直ちに作成するべきです。現状の日本では、どこで何の試合が行なわれているかわからない上に、育成の試合会場はアクセスが悪いことが多いので、決して試合を観戦できる状況ではありません。

 

|3.情熱的な指導

f:id:prejump:20160419194453j:image
f:id:prejump:20160419194521j:image
f:id:prejump:20160419194708j:image
「やはり」という感じでしたが、たとえ育成年代の指導においても、かなり情熱的に指導をします。ヨーロッパは日本とは違い「年齢」により態度を変えるような文化がないことも影響していると思いますが、たとえ子供相手であっても、大人と同じように情熱的に指導をしていました。ミスに対してはものすごくリアクションをとるし、常に立って身振り手振りで指導をしていました。ただ、これが比較をできない良い例です。

日本人の子供と、スペイン人の子供では、指導に対しての捉え方が全く異なります。選手と指導者が言い合っているような場面をここでは多く見ましたが、日本ではほとんど起きないことだと思います。

日本では、育成年代において「教えすぎてはいけない」ということが、よく言われています。確かにこれは間違いないことだと僕は思いますが、それを勘違いして捉えている指導者も多いのでないかと思います。試合中に何も指示を送らない、トレーニングにおいても具体的な指導をしない。それでは選手は何も成長をしません。「教えすぎてはいけない」という言葉は、知識を得る努力をしていない指導者の「逃げ道」になりえてしまうのです。

また日本では「体罰」や「ブラック部活」という言葉が一人歩きをしていて、「厳しく」指導をすることが難しい状況です。これはサッカーにおいては致命的だと思います。それこそスペイン人のように「情熱的に怒る」ということ、「厳しく」育てるということは絶対に必要です。スポーツは「教育」であり、ただの「運動」ではないのです。スポーツを通じて「人として成長すること」は、競技能力向上よりも大切なことだと、僕は思っています。

結局「厳しく」して、生徒や選手に訴えられるような指導者は、それ以外のところに問題があり、信頼を得ることができていないのです。信頼関係を築いていれば、そのような問題は起こりません。

もちろん手をあげたり、暴言を吐くような「体罰」には断固反対です。何一つ意味がありません。

 

|4.プレッシャーの中でプレーをする

f:id:prejump:20160419194810j:image
f:id:prejump:20160419194831j:image

スペイン人の子供達は、プレッシャーの中でプレーをします。これについても、利点と欠点があると思いますが、まずはそれを度外視して考えます。

彼らは指導者から与えられるプレッシャーに加え、観客からのプレッシャーを感じながら常にプレーをしていると思います。

観客もまた、大人の試合と同じようにリアクションを取ります。情熱的で熱狂的です。日本ではあまり見られない光景だと思いますが、例えば小さな子供の試合でも、チャンスが訪れるとものすごく観客が湧きます。あの状況でシュートを外すということは、かなり心に負担がかかることだと思います。そのような状況で長いことサッカーを続けるわけですから、シュートを打つ際のプレッシャーに耐えられるような能力が自然と身につきます。それが大舞台でシュートを外す日本人と、大舞台でループシュートをして決めてしまうような欧米人とを分ける、原因の一つではないでしょうか?

いろいろな意見があると思いますが、僕はこの「プレッシャー」は非常に大切な要素だと考えます。日本から世界的な選手を輩出しようと考えるのであれば、過剰な保護よりも、むしろこのようなプレッシャー下でプレーをさせることの方が大切です。もちろん、それによるネガティブなポイントも理解していなければなりませんが…

 

|5.子供でもゴールパフォーマンスをする

f:id:prejump:20160419194919j:image

なぜ、パフォーマンスをするのか?僕はこのプレッシャーが大きな要因だと感じました。「嬉しさ」レベルが日本とは比べものにならないからです。プレッシャーのなかでプレーをし、そのプレッシャーに打ち勝った瞬間は、誰でも嬉しさを爆発させたくなるものです。だからこその、あのパフォーマンスだと思います。そして、シュートを外した際には、ものすごく落ち込みます。日本人の子供はあまりプレー中に感情を爆発させるようなことはないと思います。それが大人になっても「感情を出すことができない」要因になっています。

lookingforfootball.hatenablog.com

指導者の責任もありますが、環境もまたこれを左右しているのです。

ハリルホジッチ監督が日本代表に対して行った指示は、こういう子供の時からの育成を変えていかなければ、改善することはありません。

www.nikkansports.com

 

|6.日本とヨーロッパでは課題が逆になる

f:id:prejump:20160419195020j:image

日本の課題は「選手をどうハングリーにするか」つまり「どうプレッシャーを与えるか」だと思います。日本人はプレッシャーに弱く、ハングリー精神に欠けます。ただ、スペイン人の指導者の人と少し話をさせてもらいましたが、これはスペインでは真逆の悩みなのです。つまり選手たちにあのような「プレッシャー」を与えることはあってはならないと感じているということです。このことを理解しなければ、ヨーロッパの指導理論をそのまま日本に導入してしまう恐れがあります。日本でこれ以上選手を「過剰に保護」するような育成を行っていけば、世界的な選手は一向に生まれないと断言できます。

「感情を出す」という行為と「感情を抑える」という行為についてはまさに気をつける必要があります。レイモンド・フェルハイエン氏の「サッカーのピリオダイゼーション理論」のセミナーを受講した際、「フットボール・ブレイニング」という項目がありました。ここではどうプレー中に「感情を抑えるようにコントロールをするか」という課題がクローズアップされていました。感情が爆発してしまうスペイン人なんかは、まさにこの課題に取り組んでいることと思います。

ただ、これは欧米人のように少し狂気的な部分があり、試合中に感情を出してしまい、それがマイナイスに働くことが多いからこその、欧米人の課題です。

僕がこれまで訴えてきたように、日本ではその課題は真逆なのです。どう「感情を出すか」という観点から育成をしていかなければなりません。

日本人とヨーロッパでは、課題が逆になることが多いのです。

だからこそ、日本人自身が日本人の文化を理解し、ヨーロッパの理論をそのまま取り入れるのではなく、日本人には日本人の方法で育成計画を立てなければ、意味がないのです。

 

後編に続く…

 

筆者FacebookKazuma Kawauchi

筆者Twitter河内一馬|Kazuma Kawauchi (@ka_zumakawauchi) | Twitter

lookingforfootball.wix.com