Looking for Football

フットボールと、旅。

「一人寂しいサッカー観戦 〜その頃おじさんは〜」Amsterdam, Netherlands

民的祝日だったからなのかもしれない。

この日は「キングスデイ」と呼ばれる、オランダの国民的な祝日。街にはオレンジが溢れ、人々は踊ったり、歌ったり、食べたり飲んだり、とにかく騒ぎまくっている。本当にこの国の人々は、自分の国のことが大好きなんだなと思う。日本人が日の丸をつけて騒ぎまくる日なんて、ない。

その日の夜は、チャンピオンズリーグの試合が行われる予定だった。バイエルン・ミュウヘンVSアトレティコ・マドリードというたまらない好カード。サッカーファンなら見逃すことが出来ない一戦である。

当然僕は、猛烈に見たかった。

 

|探し回る

街に出て、バーやらレストランやら、試合が流れている店を探す以外に観戦をする方法はない。ここはサッカー大国オランダ。すぐに見つかるだろうと高を括っていた。しかし、10分探しても、15分探しても、全然見つからない。至る所で人々が盛り上がっているのは間違いないが、どこもかしこもチャンピオンズリーグどころか、サッカーのサの字もない。

やっとの思いで見つけたバーの店内には、5人の若者と1人のおじさんがいた。

 

|初体験

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ヨーロッパに来て、こんなに寂しいサッカー観戦は初めてだった。

ビールを注文し、席に座る。前に陣取った若い5人組と、後ろに座るおじさんとの間。前に座る若い5人組は、どうやら試合を見ていないようだ。ちゃんとサッカーを観ろと説教をしてやりたかったけど、説教ができるほど僕の言葉は流暢じゃない。

試合はアトレティコが早々に先制し、ひたすら守っている。そんな展開だった。

白熱の前半が終わると、その若い5人組は帰って行った。やっぱり説教をしておくべきだった。

 

|その頃おじさんは

後半が始まる頃、店の中は僕とおじさんだけになっていた。聞こえるのは店員がトイレを掃除する音と、いつの間にかリアクションが欧米人っぽくなっている僕の、時より流れるため息だけだった。

試合は相変わらず、バイエルンが攻めて、アトレティコが守っている。

静かだし、一人だし、こんなに寂しい気持ちでサッカーを見るのは、日本で夜中に一人試合観戦をしている時の感情と似ている。僕はずっと、ヨーロッパが羨ましくて羨ましくてしょうがなかった。

そんな煮え切らない思いで試合を観ながら、僕はグアルディオラを見るたびに「おれもハゲたらスキンヘッドにして髭を生やしてスーツを着ればなんとかなるな」とか思っていた、そんな時だった。

 

|叫

バイエルンのアルバが、クロスバー直撃のミドルシュートを放った。これがプレミアリーグだったらシュートを打つ2秒前には「シュー!!」という声でスタジアムが包まれ、クロスバーにボールが当たった瞬間に、全員が低い声を出していただろう。でもここは、僕とおじさんしかいない、オランダの寂しいバーである。

 

その時だった。まさにボールがバーに当たって跳ね返った瞬間、それまで一言も発していないどころか、気配までをも消していたおじさんが

 

「アァアーーーーーーーー!!!!!ゥウ!!」

 

と叫んだのだ。

僕のやや大きめのリアクションはかき消された。

そうそう、こういうの。と僕は思った。こうやってみんながリアクションをとるからサッカーは面白い。得点が入った時、それこそボールがポストを直撃した時、みんな叫べばいい。人々の熱狂によってサッカーは完成をするのだから。

なんだ、居るじゃないか。この試合に熱狂していたのは僕だけじゃなかったのだ。おじさん、一緒に見よう。そう思って後ろを振りかえると、暗い店内で照明に照らされているおじさんは、僕にこう言い放った。

 

「Sorry」

 

それ以降おじさんは、一言も言葉を発することなく、静寂に包まれた店内には無情にも試合終了のホイッスルが鳴り響いた。

「Sorry」と言われた僕は、あの時何という言葉を返せばよかったのだろうか。おじさんの熱を奪ってしまった僕の罪は重い。

 

オランダには、サッカーを観る人がおらんダ(国民的な祝日に限る)

 

|P.S.

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僕が寂しくサッカー観戦をしたのは、アムステルダム市内にある「PIJPAYA」という場所。

オランダに来て、アムステルダムに滞在し、その日がたまたまキングスデイで、さらには見逃せない一戦が行われていて、もしもあなたがサッカーファンだったら、ここを訪れると良い。ビールが2.5ユーロで飲むことができる上に、テレビを独り占めできるかもしれない。

 

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